過去拍手文。+3+ 東京事変「大人」より





one,秘密



今だけなの。

今夜だけなのよ。



「今日、家には帰らないんでしょう?」

「勿論」



さぁ早く。



「馬鹿みたい」

「馬鹿なんだろ」

「物好き」

「どっちが」



滑り込む手。

くすぐったい。



「愛してますよ、そこそこに」

「俺も、そこそこに」


飲まれるな。

飲み込め。





夜を支配するのは私とあなた、それがいい。









+









two,喧嘩上等



「じゃあな」

「待ってください」



鋭い眼差し。

触れれば切れるような。
交わせば凍てるような。



「本当のところ、まだ聞いてないんですけどね」

「………本当のところ、って、何?」

「とぼけないでください」



逃げられると、思う?



「そんなの許さない」



負けられないのよ。



「………あんたは、どうしたい」

「質問したのは私です」

「あんたが言ったら答えるよ」



なんて卑怯なの。



「………好きだと、言えば、それで変わると?」



ありえないでしょう、そんなことって。



「かも、な」



曖昧なあなたが大嫌い。

死んじゃえばいいのに。










+









three,化粧直し



あなたが教えてくれてたのに、



「いなくなる、なんて」



あなたが孤独を教えてくれたのは、私を本当に一人ぼっちにしないための、
優しさ、だと、思ってた。

それはきっと間違いじゃない。



だけど。



「本当に、一人になっちゃった」



涙が出るよ。

一人になったからだよ。



「………なんで、私を置いて」



連れてってよ。

一緒に行きたかったの。



次の世界へ行ってしまったあなた。



一人残された、寂しがりな私。











+









four,スーパースター



あなたはやっと手に入れたのだ。

本当に望んだもの。



テレビの中のあなたは綺麗だけれど、
それでも何故か、違う顔を、する、のね。



それに涙が出た。



きっと会えても嬉しくないよ。

今日の私では。

喜べないもの。

変わっていくあなたを。



「…………」



私の名前を呼んで欲しい。

じゃないと、あなたじゃないみたいなんだもの。



向き合いたいの。

認めたいの。

明日になれば、それは叶うのかしら。



スーパースター?










+









five,修羅場



―短夜半夏 嘘眩むとぞ―

疑うなんて浅ましい。



「………全然、寒いまんま」



忘れればいいの?



「何を、期待、してたんでしょうか」



仰げば、いい?



いっそう、このままで構わない。



今は誰にも会いたくない。

話せば零れていくであろう、あなたの、全て。



そんなの嫌。



これ以上はもう無理。



眠り続けたいわ。


何も考えたくないわ。





きっと、あなたの首筋はもう、真っ白になってしまっている。

その事実が悲しいのです。










+









six,雪国



「またな」

「………また?」

「?」

「いえ……、随分、胡散臭い言葉を残されていくのですね」

「…………」

「期待なんてしてませんよ」

「そう言うなよ」



額の口付けに、もうなんの気恥ずかしさも、喜びもない。



「都合が悪くなれば、逃げるくせに」



いじけているだけの子供のようで、私は格好悪いなぁ。



「大人の、駆け引き」



なにが。










+









seven,歌舞伎



「秘密が知りたい?」



そう。だって、わかんないことだらけ。



「本当は、そんなものないんだ」



そう。そうなの。



でも満足できないのよ。

できるわけないじゃない。



「秘密は、多分ある」



疑ってるの。










+








eight,ブラックアウト



山手線 最終で 何処へ行こうというの?



「帰らないんですか?」

「帰りたいのか?」



首を振る。



「何処へ行こうか」

「何処へでも行きましょう?」

「………本気で?」

「えぇ、でもまずもう一軒」

「……………飲みすぎだ」

「もっと酔ってたくて」



急いで帰るなんて、もう。



「寒くないか?」

「大丈夫です」



疎ましいのは光。



「送る、けど」



疎ましいのはあなた。





帰らない、って、言ってるじゃない。









+









nine,黄昏泣き



「眠ってしまえばいいんですよ」



ただ一つだけ胸に秘めて。



「私には、あなただけ」



「あなたにも、私だけ」



暗示のように、それだけを。



「……ずるい、よなぁ」

「おやすみなさい」



柔らかい感触の後、緩やかに睡魔が襲ってきて。



「、」



最後に手を繋ぎ、眠りに落ちる。



「………あらら」



しっかりと繋がれてしまった手。



「これじゃあ、帰れませんね」



苦笑して、握り返すだけ。








+









ten,透明人間



「一番好きな色?」

「そう、透明」

「………透明って色なのか」

「立派な色です」



多分。綺麗な。



「鳴海さんって透明っぽいですよね」

「は?」

「うっすい存在感」

「…………」

「まぁ、それは冗談ですけど。いいでしょう?透明」

「…嫌いになりそう」

「私は好きですよ」

「…………あっそ」

「なんでそこで照れるんでしょうか、意味わかりません」

「勘違いだ気にするな」



透明な気持ちで答えたい。

透明な気持ちを分けてあげたい。



濁りそう、でも大丈夫よ。



「あなたの色を綺麗に写すのが、私の役目、なんですかね」

「は?」

「は?ばっかり言わないでください、むかつきます」

「いや、意味わかんないし」

「わからなかった反応しなくていいです、スルーで」

「そんなことしたらあんた拗ねるだろ」

「めちゃくちゃね」

「…………」



僕は透明人間さ。



きっと透けてしまう。

その、心までも、ね。








+








eleven,手紙



あなたは今日にも素晴しい何かを現実に見出し、
明日を生きる理由にするのでしょう。

あなたの生き方が、何か、何処か、綺麗で、
私はそれになんとも言えない気持ちを抱き、
涙をこらえるのです。



望めばいいとはとても言えず。

あなたの覚悟を壊す言葉を容易くは言えず。

あなたの覚悟を壊す言葉を知りえない。



大人になってしまったから。

(何を以って大人と呼ぶか、それが未だに謎ではある)

立ち止まれないし、振り返りにくいし、
せっかちで、でもゆっくりで優しい。



それにしたって、あなたは綺麗すぎるでしょう。



誰に見せるためにそんな。
誰を魅せるためにそんな。



澱みなどない。
何にも壊せない。



わかってる。

けどもしも、



もしも、脆くなったら。

思い出して欲しい、な。



あなたの味方。



歌い続ける私。






追伸、


背負っても潰されないのは、あなたが生きていると信じて疑わないから。

それだけの理由なんです。


どうかお元気で。